相続の手続きは「やることが多い」うえに、いくつかは期限が決まっているため注意が必要です。期限を知らずに過ぎてしまうと、取り返しがつかないこともあります。ここでは、全体の流れとポイントをやさしく整理しました。

相続開始後のタイムスケジュール

被相続人の死亡
葬儀の準備
~7日以内
・死亡診断書の取得
・死亡届の提出(市区町村長へ提出)
・火葬/埋葬許可証の取得
・日程・会場・参列者への連絡
葬儀
初七日法要
~14日以内
・世帯主変更届
・年金受給者死亡届(年金受給停止)
・介護保険資格喪失届
・被保険者証の返却
※1)被相続人の個人預貯金の凍結
※2)遺産分割前における預貯金の払戻制度
~1か月以内
・葬式費用の領収書等の整理
・遺言書の有無の確認
・個人預金の凍結
※3) 葬式費用で相続財産から控除できる項目
※4) 遺言書の取扱いについては、要注意
※5) 債務の承認は慎重に
四十九日の法要
相続の放棄・限定承認
(申述代理は、弁護士業務)
~3か月以内
相続人の確定(〜相続関係説明図の作成)
相続財産、債務の概要調査
・相続放棄・限定承認(民法915条)
相続の開始があったことを知ってから3か月以内
※6) 相続財産(民法上の定義)の項目
※7) 家庭裁判所へ申述
限定承認は全員で共同して行う
所得税の申告と納付~4か月以内
・準確定申告(所得税法124条)
相続の開始があったことを知ってから4か月以内
相続税の申告と納付
(申告代理は税理士業務)
~10か月以内
相続財産の評価
遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
・相続税の申告書の作成・納付の方法の検討
・税務署へ申告・同時に納税
相続の開始があったことを知ってから10か月以内
遺産の名義変更手続1年以上~(可)
・不動産の相続登記(申述代理は、司法書士業務)
預貯金・有価証券等の名義変更 等
生命保険金の請求手続き(相続人受取)
※相続登記は、3年以内。罰則あり
相続手続きの全体像(図をご参照ください)

1. ご逝去直後(~7日以内)

  • 死亡届の提出
  • 火葬許可証の取得

この時点で、被相続人名義の預貯金口座は自動的に凍結されます。死亡届を出す・出さないに関わらず、口座は動かせなくなりますので、公共料金の引落しなどは名義変更が必要になります。


2. 初七日まで(14日以内)

  • 世帯主変更
  • 年金の受給停止手続き
  • 健康保険証の返却や介護保険の資格喪失手続き

また、葬儀費用をきちんと整理しておくことも大切です。実は葬式にかかった費用の一部は相続税の計算で差し引くことができるのです。ただし、香典返しや法要費用は対象外なので、領収書を分けておくと安心です。


3. 四十九日まで(3か月以内)

この期間は「相続するかどうか」を決める大切なタイミングです。

  • 相続放棄:「借金も含めて相続しない」
  • 限定承認:「プラスの財産の範囲でのみ借金を引き継ぐ」

判断が難しい場合は、家庭裁判所にお願いして期間を延ばすこともできます。
また、預貯金の一部については「仮払い制度」があり、相続人一人でも限度額の範囲で引き出せます。葬儀費用や急な支払いに充てることができます。


4. ~4か月以内

亡くなった方の所得を申告する「準確定申告」を行います。普段の確定申告と同じように税務署に届け出るもので、期限は4か月以内です。


5. ~10か月以内

相続税の申告と納付の期限です。財産の評価や遺産分割の内容が直接影響するため、専門家のサポートを受けながら進めることが多い場面です。


6. 1年以内

遺言によって相続分が少なくなった場合、法律で守られた最低限の取り分(遺留分)を請求できる権利があります。ただし、この権利は1年以内に行使しないと消滅しますので注意が必要です。


7. その他(早めに対応したいもの)

  • 不動産の名義変更(放置するとトラブルの原因に)
  • 生命保険金の請求(3年以内に手続きしないと受け取れない場合あり)
  • 預貯金の払戻し(5年以内に請求が必要)

手続きの注意点

  • 遺言書の取り扱い
    特に自筆証書遺言は、家庭裁判所での手続きを経ずに開封すると過料(罰金のようなもの)の対象になります。見つけたら必ず家庭裁判所へ提出してください。
  • 借金(債務)の承認に注意
    相続放棄や限定承認を考えているときに、うっかり借金を一部返済してしまうと「すべて相続する」とみなされることがあります。支払いや署名は慎重に扱いましょう。
  • 相続財産になるもの・ならないもの
    「民法上の相続財産」と「税法上の課税対象となる財産」は範囲が異なります。生命保険金や死亡退職金は遺産分割の対象にはなりませんが、税金の計算には含まれることがあります。

ポイント整理

  • 短期(7~14日):役所や保険・年金など生活基盤の変更、葬儀費用の整理
  • 中期(3~4か月):相続するかどうかの判断、準確定申告
  • 長期(10か月~1年):相続税申告や遺留分請求などの重要な期限

まとめ

相続の手続きは、期限を過ぎると取り返しがつかないものが多くあります。
「まだ大丈夫」と思って先延ばしにすると、思わぬ不利益を受けてしまうことも。
「何から始めればいいかわからない」と感じたら、早めに専門家に相談して、一つひとつ確実に進めていくことが安心につながります。当事務所におきましてもご相談承ります。


主な期限付き手続き一覧(表)(ご参考まで)

手続き内容期限備考
死亡届提出・火葬許可証取得7日以内市区町村役場
世帯主変更・年金受給停止・介護保険喪失14日以内役所・年金事務所
相続放棄・限定承認申述3か月以内家庭裁判所
準確定申告4か月以内税務署
相続税申告・納付10か月以内税務署
遺留分侵害額請求1年以内裁判所
不動産・預貯金名義変更なるべく早く銀行・法務局など