
《遺言書作成時の調査については、前回の記事(⑱)もご覧ください》
相続が発生した場合、まず重要になるのが「相続財産調査」です。これは、被相続人が残した財産や負債の全体像を正確に把握する作業であり、相続手続きの出発点ともいえます。調査を怠ると、後から財産や借金が見つかって手続きがやり直しになったり、相続人同士の不信感や争いにつながったりすることも少なくありません。ここでは、なぜ相続財産調査が必要なのか、その理由や進め方を整理してみましょう。
- 財産調査を行う理由
- 遺産分割協議の基礎資料となるため
相続人同士で遺産の分け方を話し合う際には、どのような財産があるのかを客観的に把握することが不可欠です。不動産や預貯金、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務などマイナスの財産も調べて初めて、公平かつ適正な協議が可能となります。 - 相続放棄や限定承認の判断材料となるため
相続は必ずしもプラスの財産ばかりとは限りません。借金が多い場合、かえって相続すると負担が大きくなることもあります。その場合は家庭裁判所に「相続放棄」や「限定承認」を申し立てることになりますが、期限は相続開始を知ってから3か月以内と短いため、早めの調査が欠かせません。 - 税務申告の正確性を確保するため
相続税が課されるケースでは、財産を正しく申告しなければなりません。土地の評価や非上場株式の有無、生命保険の扱いなどは専門的な知識が必要で、調査を誤ると申告漏れとなり、加算税や延滞税といったペナルティを受ける恐れがあります。 - 将来的なトラブル防止のため
財産調査を怠り、後から不動産や預貯金が見つかった場合、再度遺産分割協議を行わなければならず、親族間の関係が悪化することもあります。「財産を隠しているのでは」といった疑念を招くことも多く、最初にしっかり調査しておくことがトラブル予防につながります。 - 名義変更・解約手続きのため
預貯金や不動産などの名義変更、公共料金や契約の解約を進めるには、対象財産を正確に特定する必要があります。調査が不十分だと、一部財産だけが未処理のまま残り、将来の手続きが煩雑になる恐れがあります。
- 調査対象となる財産
財産には「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。両面を調べることが欠かせません。
• プラスの財産:預貯金、不動産(登記事項証明書や固定資産税通知で確認)、株式・投資信託などの有価証券、自動車・貴金属・美術品などの動産、生命保険金や死亡退職金(分割対象外でも課税対象になることがある)
• マイナスの財産:借入金・ローン・連帯保証債務、未払税金、医療費や公共料金などの未精算費用 - 調査の方法
• 金融機関に残高証明を請求する
• 法務局で不動産登記簿を取得する
• 市区町村で固定資産評価証明書を取得する
• 証券会社や保険会社へ照会する
• クレジットカード会社やローン会社に残債を確認する
これらを一つずつ確認するのは手間がかかり、特に複数の金融機関や遠方の不動産がある場合は大きな負担になります。調査の抜け漏れは相続全体の不利益につながるため、注意が必要です。 - 調査を怠った場合のリスク
• 遺産分割協議が無効となり、最初からやり直しになる
• 不動産登記や銀行払戻しが停止・取消しとなる
• 相続税の申告漏れで加算税や延滞税が課される
• 相続人間の不信感が高まり、感情的な争いに発展する
このように、財産調査の不備は「法律上の不利益」と「人間関係の不利益」の両方に及びます。 - 他士業との役割分担と行政書士のサポート
財産調査は行政書士が中心的に支援できますが、その後の具体的な手続きには他士業の専門分野も関わってきます。
• 司法書士:不動産の相続登記や名義変更は司法書士の独占業務です。調査で判明した不動産については、登記申請を司法書士と連携して進めます。
• 税理士:相続税の申告や税務相談は税理士の専門領域です。財産評価や課税額の計算が必要な場合には税理士に依頼する必要があります。
• 弁護士:遺産分割協議がまとまらない場合や紛争解決を要する場合は、弁護士が対応することになります。
行政書士はこれらの士業と橋渡しをしつつ、戸籍収集・相続人調査・財産目録作成など、相続全体の基盤整備を担います。当事務所でも、必要に応じて他士業と連携し、安心してワンストップでご相談いただける体制を整えています。
まとめ
相続財産調査は、単なるリストづくりにとどまらず、
- 遺産分割の公平性を保つ
- 相続放棄や限定承認の判断材料となる
- 税務リスクを防ぐ
- 相続人間の争いを避ける
- 名義変更や解約手続きの基盤を整える
といった役割を担っています。さらに、不動産登記・相続税申告・紛争解決といった場面では他士業との協働が不可欠です。正確な調査を行い、必要に応じて専門家と連携することで、相続の全体像が明らかになり、安心して手続きを進めることができます。
当事務所では、戸籍収集から財産目録の作成、他士業との連携によるスムーズな手続きまで丁寧にサポートいたします。相続に直面した際には、まず「財産調査」から着実にスタートすることが何より大切です。