~遺言だけでは足りない“死後の手続き”~

1. 死後事務とは?また、どのようなものがあるか?
死後事務は“生活の整理”、相続は“財産の承継”と性格が異なりますが、いずれも備えておくべき手続きです。
「死後事務」とは、人が亡くなった後に必要となる事務的な手続きや生活の整理を指します。遺言書ではカバーできない実務的な部分が多く、残された家族や周囲に大きな負担となります。特に身寄りのない方や頼れる親族がいない場合は、第三者が担う必要性が高まります。
主な内容は、大きく分けて ①葬儀・②納骨・③行政やその他生活関連の事務 です。
① 葬儀
- 遺体の引き取り・安置(葬儀社・病院・警察署など)
- 死亡届の提出・火葬許可証の取得(故人の住所地の市区町村役場(7日以内))
- 葬儀社との打ち合わせ、葬儀の執行
- 火葬・収骨
② 納骨
- 納骨先(お墓・納骨堂等)の確認
- 搬送・納骨式・法要の実施
③ 行政やその他生活関連の事務
(1)行政手続き
- 健康保険証・介護保険証・マイナンバーカード返却(市区町村役場)
- 葬祭費申請(市区町村役場)
- 住民票・世帯主変更(市区町村役場)
- 年金停止・未支給年金や遺族年金の請求(年金事務所)
- その他企業年金等の手続
(2)生活・契約関係の整理
- 病院・介護施設費用の清算(病院・介護施設窓口)
- 賃貸住宅の解約・家財整理(不動産管理会社・大家)
- 電気・ガス・水道などライフライン解約(各事業者)
- 固定電話・携帯電話・インターネットの停止(電話会社・通信会社の窓口)
- クレジットカードや銀行口座の解約(各カード会社・各金融機関)
- 生命保険金の請求(契約先の保険会社)
(3)デジタル遺品の整理
- SNSやメールアカウントの削除(各サービス提供会社)
- クラウドやサブスクリプションの停止(各サービス提供会社)
- デジタルデータの保存・整理
これらは数十件にのぼることもあり、短期間で行う必要があります。喪失感の中で取り組むご遺族にとっては大きな負担となるため、事前に「誰がどのように担うか」を決めておくことが重要です。
2. 死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、本人(委任者)が自分の死後に必要となる様々な事務手続きを、信頼できる第三者(個人・法人)に生前に委任する契約です。
遺言書が「財産の分け方」を定めるのに対し、死後事務委任契約は 葬儀(葬儀方法の細かな指定など)や生活上の整理(家賃精算、遺品処分)など、遺言では指定できない実務的なこと を網羅できます。
生前に死後事務委任契約を整えておけば、
- 本人の希望どおりの葬儀・納骨や生活整理ができる
- 遺された家族の負担や混乱を大きく減らせる
- 身寄りがない方でも安心して生活を続けられる
といった効果が期待できます。
委任できる具体例
- 通夜・告別式や納骨に関する希望の実行
- 死亡届の提出や年金の停止、埋葬料の申請
- 公共料金やライフラインの解約、医療費の支払い
- 住居の退去・明渡し、遺品整理
- デジタルデータやSNSアカウントの削除
- 親族や関係者への連絡
受任者になれる人
- 親族や友人などの個人
- 行政書士・司法書士・弁護士などの専門家
- 社会福祉協議会やNPO法人、民間事業者
契約は公証役場で公正証書にすることが推奨されます。そのほうがより安全で安心です。
特に「おひとり様」や「頼れる親族が遠方にいる方」にとって、死後事務委任契約は最期を安心して迎えるための有効な方法です。
契約のポイント
- 依頼する範囲を明確にする(葬儀・清算・解約など)
- 受任者を決める(親族・友人・専門家など信頼できる相手)
- 条件や費用を整理する(委任内容・報酬・アクセス権限など)
死後事務委任契約は、遺言書・任意後見契約・家族信託 などと組み合わせれば、「生前から死後まで切れ目なくサポートできる仕組み」となります。
準備の有無で、遺された人の安心感や手続きのスムーズさは大きく変わります。
元気なうちに一歩踏み出すことが、ご本人にとっても周囲にとっても「安心の備え」となります。
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