「財産が少ないから、うちに限って揉めることはない」──多くの方がそう考えがちです。ところが実際には、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の大半は、ごく一般的な家庭の相続に集中しています。

令和6年司法統計によると、遺産分割事件の約75%は遺産総額5,000万円以下のケース。特に1,000万円以下が約3割強、1,000万円超~5,000万円以下が約4割強を占め、「少額だから安心」という思い込みこそが危険であることが浮き彫りになっています。

📊 参考統計(令和6年司法統計年報より)

遺産総額別(申立件数)

  • 1,000万円以下: 5,098件 (33.1%)
  • 1,000万円超~5,000万円以下: 6,621件 (43.0%)
  • 1億円以下: 1,655件 (10.8%)
  • 5億円以下: 1,048件 (6.8%)
  • 5億円超: 98件 (0.6%)
  • 算定不能・不詳: 859件 (5.6%)
  • 合計: 15,379件

財産の種類による違いも見逃せません。最も紛争が生じやすいのは不動産、特に土地や自宅です。分割が難しいため、「誰が住むのか」「売却するのか」といった利害の衝突が避けにくく、感情的な対立に発展することもあります。次に現金・預貯金は分けやすい資産ですが、金額の大小によっては公平性をめぐる不満が生じる場合もあります。有価証券やその他の財産も評価や処分の方法をめぐって意見が割れやすく、結果として調停や審判に至るケースがあります。

📊 参考統計(令和6年司法統計年報より)

財産種類別(相続財産の構成割合)

  • 土地: 約34%
  • 現金・預貯金: 約34%
  • 有価証券: 約15%

さらに、争いの多くは相続人の人数が2~4名と比較的少ない場合に発生しています。「人数が多いから揉める」のではなく、むしろ兄弟姉妹の間で意見が食い違い、話し合いがこじれるケースが多いのです。実際、令和6年の遺産分割事件数は15,379件にのぼり、20年前と比べて約1.7倍に増加しています。

なぜ、一般家庭の相続ほど揉め事が多いのでしょうか?

遺産が少ないほど「わずかな差」が大きく感じられやすく、「自分の方が多くもらうべきだ」という感情に直結しやすくなります。

土地や自宅は現金のように等分できず、「誰が住む・売る・貸す」の判断で対立が生じやすい資産です。共有にした場合も売却や管理が複雑化し、長期の争いの火種となります。

過去のしがらみ(長男・長女への不満、親の介護をめぐる不公平感、昔の兄弟間のわだかまり)が相続を機に表面化することも少なくありません。金額の大小よりも感情的な不満が対立の主因になることが多いのです。

民法で「法定相続分」が定められているため、自由に分けるには相続人全員の同意が不可欠です。1人でも納得しない人がいれば話し合いが止まり、調停や審判に発展します。

「財産を隠しているのでは」「預金を勝手に使ったのでは」という疑念が生じると、信頼関係が崩れ争点が拡大します。

相続税、登記、金融機関の手続きなどに不慣れなため誤解や不信が生じ、「制度や手続きが複雑で誤解や不信につながりやすい」という事態になることもあります。

このように、争いの原因は「金額の大小」ではなく、分割の難しさ・感情の対立・制度上の調整不足が中心であり、結果として少額でもトラブルが多発しているのです。

遺言書が「争族」を防ぐ最善策

遺産分割の争いは、資産の多寡にかかわらず起こり得ます。
だからこそ重要なのが遺言書の作成です。

あらかじめ分け方を明確にしておけば、相続人間の解釈や意見の違いを減らし、家庭裁判所に持ち込まれる深刻な対立を未然に防ぐことができます。

「自分の財産は少ないから大丈夫」と考えるのではなく、むしろ一般家庭だからこそ備えが必要です。遺言はご自身の意思を残すとともに、ご家族の安心と円満を守るための大切な準備なのです。

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